20代、独身、パートナーなし、乳がんになった

胸のしこりに気づいたのは今年の夏ごろ。たぶんオリンピックの前にはそんなものなかった。

どうせ何ともないと思ってぼんやり酷暑を過ごしていたけれど、ふと母に「そういえば最近胸にしこりがあるんだよね」と言ってみた。何もないならそれでいいから、病院行ってきたら?というすすめに、その時は素直に従って乳腺外科を受診した。

超音波を当て、先生は「おそらく良性のしこりだと思いますけど、検査はどうしますか?」と言った。100%言い切れないなら検査をしてくださいと返した。するだけして、それで何ともないならいいよね、と思っていた。検査は針生検と言って、局所麻酔をしてしこりの細胞を採取するものだった。麻酔デビューに浮かれていたけど、次の日は胸が黄色いあざだらけになっていた。

検査結果は2週間後に出るので、それ以降ならいつ来てもいいと言う。いつもは、めんどくさがって先延ばしにしがちだけれども、何となくきっちり2週間後に結果を聞きに行った。

胸のしこりは、よく動き、表面はどちらかというとつるんとしていて、ちょっと大きいビー玉くらい。どうせ良性だけど、いちおう検査結果を聞いとこうくらいの心持ちで診察室に入ったら、「乳がんです」と告げられたのだった。

乳がんです」の後にどんな説明をされるのか待ち構えていたら、お互い無言になった。先生はひとこと、大丈夫ですか、とぽつりと言った。

大丈夫なわけないじゃん、と思ったけど言わなかった。20代で乳がんですって言われて、良性かもってあやうく検査すらしなさそうな雰囲気を出しておいて、病気の説明さえしないで何が「大丈夫ですか」なんだろう。何と返すべきなのかよく分からなかった。どのくらい急いだ方がいいのかと、紹介状を書いてもらえることだけを確認して、ぼんやりとした気持ちで病院を出た。

これは確実に現実なんだけれども、他人事としか思えなかった。

こんなに元気なのに、胸にあるなんだかよく分からないしこりが1つあるだけで、なぜ、病気なんだろう。なんで乳がんなんだろう。がん家系でもないのに。まだわたし若いのに。そのうち入ろうと思っていた保険、入ってなかった。契約した住宅ローンは組めなくなるかな。なんで会社の検診は20代は乳がんないんだろう。送られてくる「乳がん自己検診のすすめ」のリーフレットにはしこりがあるからと言って乳がんとは限りませんって書いてあるんだろう。変だなと思ったら乳がんかもしれないからすぐ病院に行けって、言ってくれたらよかったのに。もっと早く行ったのに。そんなこと考えたこともなかった。

家族は、検査結果が間違っていることもあるかもしれないよ、と励ましてくれた。そんなわけないじゃん。細胞採って乳がんって言われたんだから、乳がんに決まってるじゃん、と言って八つ当たりをした。